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パフォーマンスとしての徹夜


 徹夜作業。
 実際には、貫徹をする時は少なく、途中で仮眠を取る。貫徹しても作業が進むわけではないためなのです。
 しかし、状況によっては、徹夜をしたという事実が大事になることがあります。

 そんな時の話です。

 客先常駐の作業で、1週間泊まり込みの作業が続いていたある日。
 客筋の上層部が、視察に来る事が急遽決まった(らしい)。

 システムの納期が遅れている現場に”客筋”の上層部が来る事は殆ど無い。遅れている現場に来ても、誰も幸せになれないからだ。
 そして、その現場では特にリリースが遅れている原因が客筋の上層部にあるからなのだ。

 その上層部が視察に訪れる事になる。
 現場の人間たちは切れる寸前。特に、常駐作業を言い渡された会社は怒り心頭な状況です。

 しかし、パフォーマンスは必要なのです。上の人間は、現場がどんな状態で作業しているのか知らない。
 ひどい場所だと、3週間近く現場に泊まり込んでいる。そんな現場に、激励という事で問題の発生源の上層部が来るのです。気分が言い訳はありません。

 私たちのチームにも現場を仕切っている会社からの指示として、その日は帰らずに、貫徹で作業を行う事になったのです。仮眠も出来る限りしない欲しいという事だ。指示の内容としてはおかしな話です。徹夜しても作業が進むわけではないのは、現場の人間なら解るはずなのです。

 後で聞いた話なのですが、この日の視察で訪れる上層部は、遅れるのは現場がしっかりやっていないからだと言っていて、自分がテコ入れをすると言っていたようです。現場を仕切っている会社は、作業を進める目的よりも演技ではない悲壮感を、上層部の人間の目に焼きつける為だったのです。

 視察後に、リーダたちが集まった会議で出された結論はリーダ達が以前から主張していた。『納期の延期か、機能削減のどちらかをやらないと、死亡者の1人や2人出てもおかしくない』が、冗談でもなんでもないと言うことが伝わり。納期の延期が認められたのです。

 しかし、機能の削減は認められなかったのです。そして、視察の翌週に全員無条件の帰宅が義務づけられたのです。

 しかし、義務感か責任感からなのかはわからないのですが、リーダの殆どが帰宅予定日も終電を逃して常駐先に泊まる事になったのです。そして、それはリーダだけではなく、現場に出ていた7割以上が終電までは残ったのです。

 そこでリーダの命令で、帰宅を命令されたのです。帰宅命令がなければ、多分残って作業を行っていた事でしょう。あれ程、帰れない事に文句をつけていたメンバーたちも上からの命令で帰れと言われると現場に残って作業をしているのです。それが間違っているとかではなく、リリースが遅れているのを少しでも取り戻そうと頑張ってしまうのです。

 ある一種のトリップ状態だったのではないでしょうか?
 リーダたちが笑いながら教えてくれた事は、同じ様に現場に居るのが当たり前になってくると、”家に帰る”のではなく、”家に行ってくる”となって、”会社に帰ってくる”となってしまうようなのです。そして、たまに家に帰ると次に出てきたときには、作業が進んでいて、自分は”ここ”に必要がない人間ではなくなってしまう、そんな感覚で帰る事を拒否するようになってしまうようなのです。
 そうなったら、終わりだからパフォーマンス以外の徹夜はしないようにと教育されます。

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