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第十二話 帰り道


 セミトレーラが動き出してしばらく経ってから、ドーリスがヤスに話しかける。
 王都に向かう行程ではアーティファクトを動かすには魔力と精神力を使うと思って無駄な話はしないようにしていたのだが、ヤスが大丈夫だと言ったので、ドーリスも気にしないで話しかけるようになった。

「ヤス殿」

「そうだ!ドーリスも、”殿”とか”様”とか付けないで欲しいけどダメか?」

 ヤスは、以前から気になっていたのだ。
 ”殿”とか”様”とか言われるのが好きじゃない。できれば、神殿の主と言われるのも止めてほしいと思っていた。

「良いのですか?」

「別に、俺が偉いわけでもないからな。”さん”付けならなんとか許容できる」

「わかりました。ヤスさん」

「それで頼む。サンドラとか神殿に住んでいる連中にも頼むな。セバスとかは何度も言っているけど直してくれないから諦めるとしても、神殿に住んでいる連中なら”さん”付けの方がいい」

「ハハハ。わかりました。サンドラには言っておきますし、他にも、様を付けそうなディアスやカスパルにも言っておきます」

「頼む。神殿の外ではダメなのだろう?」

「はい。申し訳ないのですが、神殿の主として紹介しますので、ご勘弁ください」

 ヤスもそのくらいはわかっている。
 神殿の中だけでもフランクに付き合いたいと思っているのだ。

「わかった。神殿に住んでいる者や俺を守る意味もあるのだろうから諦める」

「はい。誰かに紹介する時には、流石に”様”を付けないわけにはいきません。疑われてしまいます」

「疑われる?」

「あ!いえ・・。あの・・・」

「ドーリス?」

 ヤスは、ハンドルを握りながら、ドーリスを問いただす。

「サンドラやディアスとも話したのですが、私たちがあまりヤスさんの近くに居ると、妾になったり、女性を差し出したりすればアーティファクトが操作できると思われるのも問題が出てきます」

 今、アーティファクトに乗れているのは、外から見るとカスパルだけだ。実際には、リーゼもサンドラもドーリスもディアスも操作できるのだが、カートと自転車と原付きの運転が楽しくて、車にたどり着いていない。
 ミーシャとデイトリッヒは、神殿への帰属意識よりもリーゼへの感情が勝っているのでカート場にさえ降りられない。もちろん、アーティファクトを操作することも出来ない。自転車は辛うじてできるのだが、動力を使う物は全滅なのだ。

「うーん。今更だと思うけどな?違うか?」

「え?あっ・・・。そうなのですが、これまでは辺境伯やサンドラが抑えてくれていますが、違う貴族が出てきたら話が違ってきます。それに、あっ・・・。なんでも無いです」

「ドーリス?」

「・・・」

 ヤスは、カーナビの黒い画面に映るドーリスを見る。

「すでに、私やサンドラはヤスさんの妾だと思われています」

「そう?妾?本妻は?」

「リーゼです」

「はぁ?俺は、子供には興味がない」

「・・・。そうですか?」

「・・・。なんだよ。ドーリス?」

「いえ、なんでも無いです」

 ドーリスは、ヤスの外見から10代後半だと予測していた。そして、リーゼは17歳だと聞いていた。
 そのために、お似合いであると思っていたのだ。リーゼがハーフエルフだと知らなかったのだが、知ってからはヤスとリーゼなら年齢的にも丁度良いのではと思っていたのだ。サンドラもディアスも同じように思っていたのだ。
 そして、領都から移住してきた者たちは、リーゼがヤスの正妻だから移住が許されたと思っているのだ。
 ヤスもリーゼも本人たちは住民から”最低でも恋人”だと考えられていると思っていないので、何も言っていない。言っていないので住民たちは皆が見守ることとなったのだ。

「そうか・・・。ドーリス。帰りも同じルートでいいのか?」

 これ以上の話を聞くのが面倒になったヤスはいきなり話を変えた。

「はい。そうですね。行きと違って荷物の積み込みがあるので、遅くなりますが問題はありませんか?」

「問題ないな・・・。そうなるとどこかで一泊する必要があるかな?アーティファクトなら夜中でも移動できるけど、村や町の門は閉まっちゃうだろ?」

 行きは、エルスドルフ以外の村や町で、ドーリスだけが降りて村や町に入ってギルドに挨拶をして物資を集める依頼を出す。日持ちは気にしないで食料を中心に集めてほしいという依頼を出していた。各ギルドで金貨1-5枚程度だ。
 そのために、帰りに集めてもらっている物資の搬入が待っているのだ。期間が短くて集まらない場所も有ったとは思うが、それでも各ギルドに顔を出して状況を聞く必要がある。

「そうですね。どこでも、ギルド職員用の宿泊所を持っているので、そこに泊まれますが・・・」

「ん?俺は気にしなくていい。アーティファクトの中で寝られるからな。食事だけはどこかで買ってきて欲しいけどな」

「わかりました」

 雑談を絡めながら、ヤスはドーリスに神殿の生活で不便がないかを聞いていた。
 ドーリスの答えは簡潔だった。”神殿の生活が快適すぎて他の町に行けない”だった。

 ギルドの近くに作った建物や住んでもらう場所は、ヤスは自重して作ったつもりだった。
 サンドラでさえドーリスと同じで帰りたくないと言い出しているのだ。他の者が、ヤスに感謝しているのだ。徐々に神殿への帰属意識が芽生えているので、カート場に降りられる人数も徐々に増えていくのは間違いない。

 困っていた日用品も、ユーラットとの交易が始まって少しは落ち着いたようだ。
 同時に、ドワーフたちが酒造りの合間に日用品を作っているので、神殿に居る限り食料以外で困らない状況にはなってきている。

 ヤスは、ドーリスから状況を聞いて安心した。
 食料は、今回の輸送で落ち着くとサンドラから聞いている。生活が落ち着き始めて数名は狩りや採取に出ている。神殿の周りからの採取や狩りで必要な食料は揃う。したがってあと1-2回買い出しにいけば飢える心配がなくなる。

「そうか、それなら問題はなさそうだな」

「はい」

 2箇所の村で購入した物資を詰め込んだ。
 次の町までの距離を考えると、次の町で暗くなってしまうだろう。

「ドーリス。次の町で休もう」

「わかりました」

 ライトが必要になる手前で、町に到着した。
 ヤスは、宣言通りに居住スペースで寝る。

 夕ご飯は、ドーリスが町の食堂に依頼してくれた。ヤスは、食堂からの出前を受け取って居住スペースで食べた。食器は、朝に回収しに来ると説明された。

 夜、居住スペースの明かりを落とした。
 横になって目を閉じた。

 ヤスが寝息を立て始めてどのくらい経過しただろう。

 セミトレーラを見つめる視線がいくつか現れた。結界には近づいてこないので、マルスもヤスには知らせていない。

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 セミトレーラを囲むようにしているのは、5人の男女だ。
 1人は、貴族風の格好をしているが若い男だ。そして、他の4人は同じ様な服装をしている。冒険者と言われればそうなのかも知れないというレベルだ。

 貴族風の男が、4人組のリーダの胸座を掴みながら問いただす。

「間違いないのか?」

「はい。間違いありません」

 リーダの男は、貴族風の男の掴んでいた腕を払いながら答える。

「なんとかならないのか?」

「無理です」

「貴様!無理とかなんだ!俺のために、なんとかしようと思わないのか?」

「出来ない事は出来ません。それに、俺の仕事は、貴方様をアーティファクトの所まで連れてくる事で、アーティファクトを手に入れる事はありません。老婆心ながら言っておきますが、神殿を攻略した者に対抗しようなどと思わないほうが良いと思います」

「煩い!あの神殿は俺が攻略するはずだったのだ!それを・・・」

「はい。はい。そうですね。俺たちはここで手を引かせてもらいます」

「な!貴様ら!」

「契約した内容は終わりました。後はご自由に!お得意の魔法で攻撃してみるのもよいと思いますよ。あのアーティファクトに通じれば、ですけどね。俺は、ゴブリンのようになりたくないのでね」

 リーダは、他の3人に指示をして、その場から立ち去る。
 残されたのは、貴族風の若い男と、御者が居ない馬車と繋がれた馬だけだ。

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