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第二十話 移住


「ヤス殿!」「ヤス」「これは・・・」

 内門を通過した3人の目の前には、神殿まで伸びる道があり右側には広場が存在している。
 左右には綺麗に植えられた木々があり、広場の先には建物が立ち並んでいる。

「内門の結界に偽装を施していて、建物や街並みを見えないようにしている」

「なぜ・・・。聞くまでもないか・・・。外部から来た者への牽制なのだろう?」

 アフネスが言ったことは間違いではないが、正解でもない。ヤスは、何も考えていない。ただ”見えないほうが”面白そうだという理由で設定をマルスに頼んでいる。

「まぁな。ミーシャ。家の割り振りは任せていいよな?」

「問題はないが全部を使って良いのか?」

「220名だよな。一人1軒とか言われなければ大丈夫だ。独り者なら宿屋みたいな集合住宅も用意しているし、ラナが宿屋を続けるのなら表通りに面した場所に領都にあった宿屋に似た建物も用意している。あと、表通りには店が開けるような店舗に似た建物が多い。商売をする者に優先的に割り振って欲しい」

「表通り?」

「神殿から内門に伸びる道を”表通り”と呼んでいる。神殿から見て右側が内門に向かう道で、左側が内門から神殿に向かう道として使う。向かって左側通行だな」

 神殿から内門に伸びる道は中央を木々で分離する形になっている。右側と左側という表現をヤスはしたのだが、最後には神殿から門に向かう道を”下り”として内門から神殿に向かう道を”上り”と表現すると決めた。

「・・・。わかった。理由を聞いてもいいか?」

「別に理由はないけど・・・。俺がわかりやすかったというだけだ」

「そうか・・・」

「ミーシャ。大事なのは移住者が住む場所だ!道は後で確認すればいい」

「・・・。そうですね。ヤス殿。それで家はどれを使って良いのですか?」

「ん?」

「ヤス殿?」

「あぁ悪い。神殿に近い場所の家はリーゼが使っている。ディアスとカスパルの家も近くになっている。リーゼの家の周りとディアスとカスパルの家以外なら大丈夫だ」

「それだけ・・・か?」

「そうだけど?道の反対側は、ギルドや学校や訓練所を作ってあるから、こっち側だけな。あと、畑はどうする?ドワーフたちの工房は神殿の地下に用意するつもりだし、公衆浴場近くに出入り口を作ったから近くの方がいいだろう?」

「ちょっ・・・。ヤス殿。待って欲しい。ギルドはわかるのだが、学校?訓練所?畑に工房まであるのか?公衆浴場は風呂なのか?」

「あぁ」

「ヤス。ミーシャが混乱にしてしまっているから一つ一つ説明してくれないか?」

 ヤスは自分で説明するのが面倒に感じた。マルスに相談してセバスに丸投げすると決めた。

『マルス!セバスに説明を頼みたい』

『個体名セバス・セバスチャンと眷属のメイドを向かわせます』

『わかった。俺は、アフネスをリーゼのところにつれていく、その後で神殿に帰る』

『了』

「ミーシャ。セバスが来るから説明をさせる。アフネスはリーゼのところに連れていけばいいよな?」

「わかった」「あぁ」

 ヤスは、ミーシャとディトリッヒをセバスに任せた。
 門の変更は停止を指示した。移住者たちが結界の中に入らなければ進められない。外門にセバスを貼り付けておく必要性が少なくなったのだ。神殿からもメイドが2名出てきてセバスと一緒にミーシャとディトリッヒに説明する。

「セバス。ミーシャとディトリッヒを頼む」

「かしこまりました」

 セバスがミーシャとディトリッヒの方を向いて一礼する。

「ミーシャ。セバスなら神殿に関することなら答えられるから何でも聞いてくれ」

「わかった」

「ミーシャ様。ディトリッヒ様。まずはどういたしましょうか?住居を案内いたしましょうか?」

 ヤスはセバスたちを見送った。

「アフネス。リーゼの家に案内する」

「わかった」

 ヤスとアフネスは門の近くに作られた広場から神殿近くのリーゼの家までの移動を開始した。

「ヤス。歩きながらで構わないから質問していいか?」

「俺でわかることなら答える」

「お前に答えられないことなら誰が答えられる?」

「ん?まぁいいよ。それで?」

「結局、家は何戸ほどある?」

「たくさんだ。正直、神殿の広場の1/4を住宅街にしたからな。それに、集合住宅みたいな物も作った」

「そうか・・・。集合住宅?」

「集合住宅は、宿屋みたいな感じだと思ってくれ、一つの建物の中に生活できる部屋が何戸も作ってある」

「へぇ・・・。設備は?」

「風呂以外の設備は全部ある。部屋の数も少ない場所でもキッチンとリビング兼寝室の2部屋は作ってある。多いと4部屋だったかな」

「それなら家を作った方が早くないか?」

「それも考えたけど、ツバキやセバスには伝えてあるが、家は基本的には家族者や夫婦で使ってもらおうと思っている。例外はリーゼだけだな」

「そうか・・・。ミーシャとラナがうまく配分するだろう」

「わかった。それは任せればいいよな?」

「大丈夫だ。セバス殿やツバキ殿と話をしながら決めれば良いのだろう?」

「そうだな」

「ヤス。他にどんな施設がある?」

「施設と言っても・・・。神殿の中に工房があるけど、まだ何も作ってないからな。あとは、学校や孤児院っぽい物や、訓練所かな?ひとまず建物は用意したけど、中身は何もないからな。使い方は相談になるだろう」

「・・・。わかった。ミーシャに伝えておく」

 アフネスは大きくため息を付いてから絞り出すように答えた。
 実際に施設を見ていないからまだマシだが、ヤスが作った施設を見ればため息だけで終わらなかっただろう。

 領都や王都に行けば孤児院が存在するが収容できる人数は少ない。ヤスが作った学校に隣接する形の孤児院では200名の孤児を収容できる。もちろん、食料などの物資は必要になるのだが、ただ生活する場所として考えれば十分な場所だ。王都や領都に存在する孤児院の収容方法なら600-800名の孤児を収容できる施設になってしまう。専用の浴場と勉強する場所まで用意してある。食堂もあるので働き手がいれば寮として使える。

 アフネスはヤスの気楽な言い方から見学はしないほうが良いだろうと判断した。ラナやミーシャからの報告を受けて動くことに決めた。

 後日だが、孤児院の存在を知ったサンドラが領都や王都に存在しているストリートチルドレンを神殿に連れてこようとした。反対されなかったので、孤児院を管理している人を含めて神殿につれてきた。アーティファクトの操作を覚えたカスパルがバスを操作してディアスとサンドラと一緒に王国内を移動した。貴族との交渉はサンドラが担当した。そして、離れた場所で待機していたカスパルとディアスが孤児や孤児院の先生をバスに乗せて移動したのだ。貴族も余計な支出がなくなるので考えされたがメンツがあるので、サンドラが頭を下げる格好になったのだ。

「頼む。おっ!ここがリーゼの家だ」

「本当に、神殿の近くにしたのだな」

「わかりやすいだろう?」

「ヤス。リーゼと話をしてくる」

「わかった。俺は、神殿に居るからなにかあればリーゼの家の中に居るメイドに言ってくれれば大抵のことはできると思う」

「わかった」

 アフネスはヤスと別れた。リーゼは小言を聞かされる可能性を考えてヤスを呼び込もうとしたがアフネスに止められてしまった。リーゼの家に居たメイドが施設の説明をすると言い出して素直に従った。家の説示を聞いて絶句したアフネスはリーゼに対する小言を忘れてしまった。

 アフネスの苦労は一時の物だったが、移住を任せられたミーシャとラナの心労は最高潮に達していた。
 セバスから説明を受けたミーシャはすぐにラナを呼んできてもらった。そのときに、すでにカードを発行した移住者だけではなく、ツバキにお願いしてユーラットで待機している者たちの搬送をお願いしたのだ。
 213名が結界内の広場に集まるまで皆に待機してもらった。

 皆が集まってから10名くらいのグループに分かれてもらってグループ毎に家と集合住宅の説明を行った。

 その結果、ドワーフたちは工房の出入り口近くの集合住宅と家を希望した。
 他の者もそれぞれが気に入った場所に入ることが出来た。家の設備の説明は終わらせることが出来たのだが、神殿に作られている施設の説明は後日に行うことになった。

 移住者たちが神殿で生活を初めて24時間が経過した。
 マルスからヤスに報告すべき事柄が出来た。重要な情報だ

『マスター。ご報告があります』

 ヤスもマルスも想定していない状況が発生したのだ。

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