第十四話 住居?
「なんで?」「へ?」「へぇ・・・」
結界を通り抜けると周りの様子が変わる。
乗っていた3人は、広場はただの広い場所に見えていた。それが結界を越えると家が立ち並ぶ街並みが目に入った。何か騙された気分になったのだ。
「ヤス!なんで!なんで!」
「はい。はい。簡単に言えば結界には中を見えなくする権能があって外から見えなかっただけだ」
「結界?こんなに大規模な?」
ディアスは知識として結界のことを知っている。ヤスが言っている神殿を覆うような結界は通常ではありえない。通常は野営などで馬車を守る為に発動する。範囲も数メートルが限界だと言われている。
「ヤス様。少しお聞きしてよろしいですか?」
「ん?いいけど、あんまり難しい事はわからないよ?」
ディアスはヤスの言葉で教えられないことが沢山あると理解した。
「はい。わかりました。ヤス様。右側に立っている家は?すでに住人の方がいらっしゃるのですか?」
「ん?あぁまだ住んでいないよ。移住してくる人たち用の家として作った。中の作りは甘いから直す必要はあると思うよ?それこそ、ドワーフたちに修繕を頼んでもいいかもしれない」
「え?」
「リーゼの家だけ用意して他の人の家を用意しないのは不公平でしょ?」
「いや・・・。あっそうですね。ありがとうございます」
「うん。リーゼ!窓を開けるから叩かない!」
ヤスは助手席の窓を開けた。
びっくりするカスパルとディアスだったが、リーゼが身体を乗り出して外に出ようとするのをとめるのに必死になっていた。
「リーゼの家は少し作りが違うから、ディアスさんとカスパルが住む家を案内するよ」
ヤスは山道を走っていたような速度ではなく最徐行で走っている。
神殿の近くに作ったロータリーで車を停める。
セバスの眷属である5人が魔物を連れて待っていたのだ。
「旦那様。おかえりなさいませ」
「ひっ!」
反応したのはカスパルだ。魔物が目の前に入れば驚くのは当然だ。
「カスパル。大丈夫だ。魔物だけど、神殿で保護している。可愛いだろう?」
ヤスの足にじゃれ付いている魔物を不思議そうな顔で3人が見つめる。
「ヤス様。魔物を
「違うと思うよ?神殿に所属はしてもらっているだけだからな。使役とは違うと思う。リーゼとディアスさんだ。ついでにカスパルだ。数日のうちに移住が始まると思う。対応を頼む。移住が始まればセバスも帰ってくるから、セバスの指示に従ってくれ」
眷属たちは頭を下げる。
ヤスは魔物たちを見て
「お前達も魔の森に行けない者たちは町の巡回を頼むな」
魔物たちは一斉に頭を下げる。その姿が可愛くて、リーゼも真似して頭をぴょこんと下げる。
頭を下げたリーゼだが、ヤスの足にじゃれ付いている魔物に興味津々だ。
「ヤス様。私の事は、ディアスと呼び捨てにしてください。それから、匿っていただきありがとうございます」
「わかった。ディアス。それから、匿っているつもりはないからね」
「え?」
「働いて貰うよ?カスパルもいいな」
「はい!」「もちろんです」
「まずは、家に案内する。リーゼの家はいろいろと説明が面倒だから・・・。先にディアスとカスパルの家を決めよう」
リーゼもそのほうが良さそうな雰囲気だ。ヤスは問題ないとしてディアナとカスパルから二人の生活能力を聞き取った。
ディアスもカスパルも家事全般が壊滅的な状況だ。ヤスは少しだけ考えてから近くに控えていたメイドを呼ぶ。
「料理は大丈夫だよな?」
「はい。マスター」
「リーゼ!いつまでも魔物をなでているなよ」
「え?なに?」
「リーゼは、料理は大丈夫だよな?」
「うん。できるよ?」
「わかった」
ヤスはディアスとカスパルを見る。どうしようか考えているとディアスが一つの提案をしてきた。
「ヤス様。どこか小さな家をお貸しいただきたい。すぐには無理だとは思いますが一人でできるようになりたいです」
ヤスは少しだけ困った表情をするが実際には困っていない。
困っている雰囲気を出しながらいたずらとしようと考えているのだ。
「うーん。アフネスに匿うと約束したからな。そうだ!カスパル!」
「はい!」
「お前、何でもすると言ったよな?」
「はい。なんでもします!」
「よし、俺の仕事を手伝え。アーティファクトの操作方法を教えてやる。まずは、ユーラットと居住区を繋げ。移住者の移動や物資の補給を全部担当しろ。そして、ディアスと一緒に住んでディアスを守れ。ディアスには不便をかけるけど、匿われているのを理解して嫌だろうけどカスパルと住んでくれ」
「え?」「はい?」「えぇぇぇぇぇぇ!!僕も操作したい!」
「カスパル。異論はないな!」
「はい!」
「ディアスも問題ないな。それから、生活能力がないカスパルの世話ができるようになってくれ。二人だと心配だから、ディアスができるようになるまでメイドを付ける」
「はい。よろしくお願いします」
「うん。家の場所は、神殿の近くにしよう。道沿いなら警備しやすいからな」
「??」
ヤスが選んだ家は夫婦が住むのに適した作りにした家だ。
リーゼの家から一つ離れた場所にある。眷属たちが住む部屋の隣になる。
ヤスは、カスパルとディアナを先導して歩く。
『マルス。カスパルに運転を教えたいがどうしたらいい?』
『個体名カスパルに運転させる車は?』
『最初は、小型バスだな。慣れてきたら、業務車での運搬を担当させたい。ユーラットから食料や物資を運んだりできたらいいだろう?ユーラットへの素材の運搬もできるようになれば嬉しい』
『了。地域名ユーラットまでならサポートできます。以前に行った方法で問題ないと思われます』
『ツバキと同じ方法か?』
『はい。そのときに、個体名セバス・セバスチャンの眷属にも教えていただきたい』
『いいけど?』
『今後運転を教える時には、マスター以外が教えたほうが良いと判断します』
『わかった』
ヤスとマルスが念話で打ち合わせをしている間にディアスとカスパルが住む家に到着した。
すでに先回りしたメイドが家の前で待っていた。
『マルス。鍵はどうなっている?』
『カードで代用できます』
『さっき作ったカードか?』
『はい』
『どうしたらいい?』
『登録者が居ない家の場合には、カードをドアにかざす事で登録できます。最初に登録した者が家の所有者になり追加で住民のカードを登録できます』
『わかった。登録抹消は?』
『持ち主の抹消は、マスターと個体名ツバキと個体名セバス・セバスチャンが行えます』
『わかった』
「ディアス。カスパル。家はこれでいいか?」
「え?」「は?」「いいなぁ!!」
3人の反応を見てヤスは問題ないと判断した。
「登録だけど、所有者は誰にする?ディアスのほうがいいかな?」
「本当にいいのですか?」
「何が?」
「いえ・・・。こんなに立派な・・・。それに広さも・・・」
「これが平均的な家だからな。二人で住んでもらうし少しくらい広いほうがいいだろ?」
「あ・・・。はい」
「ディアスが所有者でいいよな?」
「・・・」「はい。問題ありません」
カスパルが問題ないと言っているのだから問題ない。
「ディアス。結界に入る為のカードがあるだろう?あれをドアにかざして」
「はい」
ディアスがカードを家にかざすと”カチッ”と音がした。カードに、ヤスが適当に振った家の番号が記載された。
ディアスが開けた扉から家に入る。カスパルのカードを登録した。これで、カスパルも鍵を開けられるようになる。ヤスの譲れないところとして”玄関で靴を脱ぐ”ことは徹底する。
ヤスが設定した内装の説明を行う。
玄関から始まって、キッチンとリビング。風呂とトイレの説明だ。特に、キッチンと風呂とトイレはしっかりと説明した。
「こんな感じだけど?」
「・・・」「!!」
家の設備を説明した結果ディアスとカスパルは無言になってしまった。リーゼだけは純粋に楽しんでいるようだ。
ヤスはカスパルとディアスを家に残して後のことはメイドに任せた。当面の食料はヤスが確保している物から提供する。
リーゼとヤスはリーゼの家に移動して同じようにカードを登録してから中に入る。
広さは違うが設備には違いは無い。
リーゼが大人しく説明を聞いていた。
「ヤスはどこに住むの?」
「俺は、神殿の中に部屋があるし、いろいろ仕事がある」
「僕はどうしたらいい?」
「どうしたら?そうだな。ギルドでも手伝うか?ドーリスに話を通すぞ?」
「むぅ・・・。もういい!」
リーゼはドアを閉めて家の中に入ってしまった。
「マスター」
「面倒だろうけど、リーゼの世話を頼むな。ミーシャとかラナが来たら相談しよう」
「わかりました」
メイドは、ヤスに頭を下げてからリーゼの家に入っていった。リーゼにも2名のメイドをつけた。ディアスとカスパルには3名のメイドをつけた。
「巡回を頼むな。それから、セバスが帰ってきたら一緒に運転を教えるから覚えてくれ」
5人の眷属が一斉に頭を下げて返事をした。
やはりヤスから教えてもらうのは嬉しいようだ。頼られて命令されるのも嬉しいのだが、ヤスから教えられる事が嬉しいようなのだ。