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第二話 支配領域


「はい!ヤス」

 ヤスは、リーゼが持ってきた果実水を受け取った。

「お!冷やしてくれたのか?」

「うん!この方が美味しいでしょ?」

 リーゼから受け取ってからすぐに口をつける。

「ありがとう!うん!うまい!」

 リーゼに礼をつ会えてから一気に飲み干した。
 ヤスは”さてっ”といいながら立ち上がった。

「アフネス。リーゼ。それから、ロブアン。世話になった。神殿に行ってみるわ!」

「え?もう行くの?」

「あぁ早めに行って、確認してダーホスに報告しないと駄目だろう?」

「そうだよね。ねぇヤス。僕も一緒に」「リーゼは、後片付けと宿の仕事が有るでしょ?」

 リーゼがヤスに付いていこうとしたのだが、アフネスに止められた。

「それに、ヤスはまた来るでしょ?」

「あぁ。食事がうまいからな。また来るよ」

「本当!」

「あぁ本当だ」

「わかった」

 もともと荷物は、エミリアと小銭だけだったヤスはそのまま裏門に向かって歩いていった。

「ヤス!」

 後ろからイザークが走りながら、ヤスを呼んでいる。

「どうした?」

「はぁはぁはぁ」

「落ち着けよ」

「おぉっ・・・・。ふぅ・・・。ヤス。これから、神殿に行くのか?」

「そのつもりだ」

「よかった。間に合った・・・・」

「ん?」

 ヤスが不思議に思うのは当然だ。イザークには用事はないと思っていた。

 イザークの話は、町として当然の事だ。
 裏門は、常に閉じている。そのために、次回から一度表門でギルドカードを見せてから、裏門の鍵を預かってから、裏門に回って入って欲しいという事だ。裏門を常に開けておくのは問題だが、表門にアーティファクト(ディアナ)を置いておくのはもっと問題だ。
 そのために、一度ヤスに鍵を預けてから、裏門から入ってもらう事にしたようだ。

 ディアナは、昨日置いた場所の近くなら問題ないという話だ。門の外なので、好きにして良いという事だ。

 ヤスとイザークは、裏門まで一緒に歩いて、裏門から出て鍵をかける。

「イザーク。表門まで送っていくよ。乗れよ」

「いいのか?」

「あぁその方が早いからな」

「ありがとうな」

 イザークに、町のことを聞いた。
 ユーラットは、王家直轄領の中で最小のために、代官が置かれていない。
 代わりに、ギルドの責任者が代官を兼ねているという事だ。

 簡単にいうと、ダーホスが代官の役目も担っているという事だ。権限は一切持っていない。ただの代理でしかない。

 税に関しては、人頭税だけで年に一度、徴税吏員が町に来ることになっている。

「ついだぞ」

 ディアナは表門に到着した。

「本当に、早いな」

「そうだろう!」

「ヤスは、戻って神殿に行くのか?」

「そのつもりだ」

「思い出せるといいな」

「あぁでも、思い出さなくても、ユーラットの町に迎い入れてくれるのだろう?」

「もちろんだ!俺たちは、ヤスを歓迎するぞ!そのアーティファクトだけでもいろいろできそうだからな!」

「ハハハ。嬉しいよ。俺じゃなくて、ディアナ(アーティファクト)の方が重要のようだけどな」

「違う。違う?」

「なぜ、疑問形で答える」

「ヤスが居ないと、そのアーティファクトは動かせないのだから、ヤスが重要だってことだろう?」

「まぁいいよ。イザーク。いろいろと助かった。神殿の事が解ったら戻ってくる!その時はよろしく!」

「わかった!」

 ヤスとイザークは握手をした。
 イザークは、鍵を受け取って門番に戻るようだ。ヤスは、ディアナに乗ってUターンしてから、裏門に一度出だ。そこから神殿に向かう事にした。

 ディアナに乗り込んだヤスは1つ忘れていたことを思い出した。

「エミリア。マルスはどうしている?」

『マルスは、拠点の拡張を行っております』

「拡張?」

『マスターが確保いたしました神殿の大きさが把握できました』

「ん?」

『先日の個体名アフネスの話から、マスターの拠点の広さを限界まで広げております』

「どういう事だ?」

『地域名ブレフ山、地域名アトス山、地域名ザール山、地域名フェレンの確保を行っています』

「山?フェレン?」

『神殿の支配地域を拠点とリンクさせています。地域名フェレンは、山に広がる森の名称です』

「支配領域になると、なにか変わるのか?」

『今は、なにもありません』

「は?」

『今後の対策として支配領域への侵入を検知・阻害する事ができます』

「侵入の検知と阻害?」

『詳しくは、拠点でご説明いたします』

「わかった」

 エミリアが説明をしている最中にも、ディアナはユーラット側道(ヤス命名)を走っている。丁度、裏門に出たところだ。

(この辺りに、駐車スペースを作っておきたいな。まずは、金を稼いでからだな)

 ディアナを拠点に向けて走らせる。
 速度は時速10キロに固定した。ディアナに自動運転モードで走らせている。

 自分自身でも運転はできるのだが、エミリアから自動運転を進められた。どうやら、ユーラットから拠点に向かう道は整備されていないようだ。それも当然だろう、ユーラット-拠点(神殿)ルートは、冒険者が依頼として神殿の様子を見に行く時にしか使われない。それも、数年に一度だ。直近では、5年前に調査されたのが最後だ。

(道の整備が先だな。どうやってやろう?)

 ゆっくり走るディアナの窓から外を眺めながらヤスは街道の整備を考えているが、答えが出るような事ではない。

(この辺りは、魔物は居ないのだな)

 ディスプレイには、赤い点が見られない。

「エミリア。この辺りには、魔物は居ないのだな?」

『神域のため、弱い魔物は存在しません』

「ん?弱くない魔物は?」

『神殿の中に存在します』

「え?大丈夫なのか?」

『支配領域にしたために、魔物は出現しません』

「出現しないけど、すでに居るのだよな?」

『はい。マルスが駆除できますが?神殿の権能を使うために、討伐記録になりません』

「うーん。それじゃ保留で、後で詳しく聞く事にする」

『了』

 約2時間30分かけてユーラットから拠点への(獣道)を進んだ。
 途中からディアナでは通る事ができそうにない道幅になってしまったために、エミリアの助言にしたがって、木を倒しながら進んだ。そのために、予定の倍以上の時間がかかってしまった。

(うーん。バギーじゃなくて、ラリーカーが欲しいな)

 ヤスは拠点の入り口にたどり着いた。

(疲れた)

(俺が運転したわけじゃないが、精神的に疲れた。街道の整備は必要だ、やらないと楽しめそうにない。やることが多そうだ。まずは、定期的に金が入ってくる状態を作らないと生活ができない。それに、うまくやらないとディアナを使っての運送業にもいろいろ制限が出そうだ)

(まずは、拠点の把握からだ!)

 ヤスの眼の前に広がるのは、何もない広大な空き地だ。

 しかし、空き地に足を踏み入れようとしても入る事ができない。

「エミリア!」

『マルスが答えます。マスター。魔力登録をお願いいたします』

「わかった。どうすればいい?」

『足元が、神域の境界です。地面に魔力を流すようにお願いいたします』

 ヤスが地面に手をついて、魔力を放出するイメージで流すとヤスから光が空き地を包むように広がっていく。

「マルス!」

『ありがとうございます。これで、神域はマスターの物になりました。続きまして、正面にある建物までお願いします』

「わかった」

 マルスは建物と説明したのだが”かつて神殿だった物”と行っても問題ない位に朽ち果てている。

 建物まで、10分位かかってしまった。
 途中でヤスはディアナで来ればよかったと何度考えたことか・・・。

『マスター。扉に魔力を流してください』

「わかった」

 ヤスは同じ要領で扉に触れて魔力を流し込む。

 神殿を中心に光が周りに広がっていく・・・。

『マスター。神殿への干渉が可能になりました。エミリアを御覧ください』

 ヤスは、エミリアを取り出して確認する。

 今までは、マルスというアイコンだけが存在していたのだが、マルスのアイコンの名前がディアナに変わっている。
 建物のアイコンが増えて、マルスと名前がつけられている。人のアイコンがあり、ヤスとなっている。

「マルス。これは?」

『今後マスターの道具となる”車”はディアナが管理します。マルスは、拠点及び神殿の管理を行います。マスターの情報も管理/閲覧できます』

「よくわからんが、わかった」

しおり