バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

コンビニおもてなしの忘年会 その1

 この世界は、僕が元いた世界ほど四季がはっきりしていません。
 夏熱く冬寒いのは一緒なんですけど、夏は暑くなっても30度くらいまでだったし、冬は今のところ一番寒かった日でも20度くらいにしかなっていません。
 スアの話だと、もっと北の方にいけば雪も降ってるそうで、逆にもっと南にいけば年中泳げるほど温かいんだそうです。

 とはいえ、コンビニおもてなしで展開している冬用メニューは今のところどれも好調な売れ行きです。

 肉まん類は、お弁当のついでに買って行く人が増加しているし、おでん弁当も相変わらず好調な売れ行きを維持しています。
 アルリズドグ商会から魚介類を仕入れることが出来るようになってから生産が始まった竹輪やはんぺんといった練り物類が特に好評で、竹輪に関して言えばパンに竹輪を挟んだちくわパンが思わぬヒット商品になっていたりします。
 パン類は、本来は蝸牛人のテンテンコウ♂が作成するのですが、このちくわパンに関しては諸事情によりすべて僕が作成しています。

 と、いいますのも

「パパ、ただいま!」
 学校から戻ってきたパラナミオが、今日も満面の笑顔で店の入り口から入って来ました。
 そしてその笑顔のまま僕に駆け寄ってきて抱きついて来ます。

 父として……まさに至福の瞬間です。

 で、最近少しおませさんなパラナミオは、ここで僕に向かって目を閉じて唇を突き出してくるんですよね……ただいまのキッスのおねだりといいますか……まったく、こんなこと、どこで覚えたのやら……
「だって、パパはママにいつもしているじゃないですか、パラナミオにもしてほしいです!」
 そう言ってダダをこねるパラナミオ……まさかの犯人自分に苦笑しながら、僕はパラナミオの唇に自分の頬を軽く当てていきます。今はこれでパラナミオも満足してくれています。
 ただいまのキッスを終えて満喫中のパラナミオに、僕は笑顔でいつものコレを差し出します。
「さ、今日のおやつだよ」
「わぁ、今日もちくわパンですね!パラナミオ、パパが作ってくれたちくわパン大好きです」
 パラナミオは嬉しそうに微笑みながら、僕からちくわパンの入った袋を受け取り、巨木の家へと駆けていきます。
 その後ろ姿を見送るのがまた、至福の時間です。

 と、いうわけです。
 パラナミオに
「パパが作ってくれたちくわパン大好きです」
 なんて言われているんですよ?
 僕が作るしかないでしょ?

◇◇

 前からやっていたスープバーと、セルフサービスのコーヒーも、気温が低くなってきてから利用者が目に見えて増えています。
 スープバーは、レジで『スープバーを』と注文してもらえば蓋付きの器を1つ渡し、レジ横に準備してあるスープの入った寸胴の中身をどれでもひとすくい入れてもらえるサービスです。
 毎日だいたい3種類準備していまして……
 味噌玉をつかった味噌汁と豚汁……あ、肉がブルブンタっていう豚に似た害獣の物を使っているのでブルブンタ汁になるのかな?……うん、語呂が悪いので豚汁のままにしておきます、はい。
 具材はその日の野菜類の仕入具合によって臨機応変に変更していますが、この2種類が定番です。
 あと1種類は、日替わりでいろいろなメニューを試しています。
 先日なんかは、アルリズドグ商会から仕入れている魚介類の中にアサリもどきっぽい貝類があったので、それを使ってクラムチャウダー風のスープを作ってみたところ、大人気であっと言う間にコンビニおもてなし全店で売り切れるほどでした。
 コーンもどきを使ったコーンスープや、鶏ガラを使った中華風スープなどなど、僕自身もあれこれ楽しみながら作成している次第です。

 セルフサービスのコーヒーも、レジで「コーヒーを」と注文してもらえばコーヒー用の蓋付きカップを渡しまして、レジ横、スープバーの横に置いてあるポットからコーヒーを入れてもらっています。
 以前は、元々店にあったセルフサービス用のドリップコーヒーマシンを使用して淹れ立てを提供していたのですが
「これ、めんどくさいしわかりにくい」
 と、総じて不評だったんですよ。
 そのため、レジ裏で煎れたコーヒーをポットに入れておいて、ポットからカップに注いでもらう方式にした次第です。
 カウドン乳の入ったポットと、砂糖の入った瓶も準備してあります。
 ちなみに、このポットには細工がしてあります。
 スアが魔法でポットの内部を魔法袋とほぼ同じ状態にしてくれているんです。
 そのため、レジ裏で煎れてすぐの状態のままのコーヒーが保温・保存されているんですよ。
 だから、ポットから注いでいるのに、いつでも淹れ立てコーヒーが飲めるわけです、はい。
 で、このコーヒー豆ですが、この世界には存在していませんでした。
 店の在庫として残っていた販売用のコーヒー豆を、プラントの木で増やして使用しているんですよね。
 
 で、このスープとコーヒーのセルフサービスコーナーですが、やはり初見さんだと戸惑うことが多いのですが、そのため本店では店内案内係兼試食配布要員であるウルムナギ又のルービアスが、そんなお客さんがいたらすぐに声をかけてお手伝いしてくれている次第です。
 ……気がつけば、ルービアスもすっかり本店の店員として欠かせない存在になっている次第なんですよね。

 僕が仕入などで不在の際には店長補佐としてブリリアンが陣頭指揮をとってくれていますし、
 弁当作成作業のみならず、4号店で販売している土産物のぬいぐるみの作成までチャチャッとこなしてくれる魔王ビナスさん。
 ヤルメキスも、結婚が決まってからも元気いっぱいでスイーツ作りを頑張ってくれています。

 あ、パラナミオがサラマンダー特有の召喚魔法で頑張って召喚した黒骨人間(ブラックスケルトン)も昆虫人相手に昆虫ゼリーを売り続けています。
 この昆虫ゼリー販売ですけど、地味ながらも馬鹿に出来ない売り上げになっているんですよね、これが。

 スアの使い魔の森のみんなには、スアビールを始めコンビニおもてなしで販売する商品の作成を手伝ってもらっています。
 一番の売れ筋商品であるスアビールは、使い魔の森の皆の協力のおかげで販売出来ているといっても過言ではありません。
 ハニワ馬のヴィヴィランテスには品物の輸送を頑張ってもらってますし、冷蔵系の使い魔達には、本店地下の冷蔵室を冷やすのも手伝ってもらってもいます。

 武具や調理器具、弁当箱などを作成してくれているルア工房の皆さん。
 哺乳瓶を始め、ガラス食器やガラス製品を納品してくれているペリクド工房の皆さん。

 崇め奉られる存在にもかかわらず気さくに4号店で温泉饅頭を実演販売し続けてくれているララデンテさんという幽霊……じゃなかった、この世界では思念体っていうそうなんですよね、そんな人もいたりします。

 と、まぁ、この世界に飛ばされてきた時には僕一人だったコンビニおもてなしも、いつの間にかたくさんの人に支えられ、交流しながら営業しているわけです。

「……そんな皆さんを慰労してあげたいなぁ」
 僕は、そんな事を思ったわけです。
 ちょうど年末です。
 僕が元いた世界では忘年会シーズンでもあるわけです。
 ただ、この週末はパルマ聖祭ケーキの配布や、ヤルメキスとパラランサの結婚式があってゴタゴタしますし、その翌週となるとコンビニおもてなしも年末年始休暇に入りますので……そこから導き出される答えは……

「明日の休みにやってしまうか……」
 とまぁ、そんな考えに至ったわけです、はい。

 まずは場所です。
 どうせならみんなが行ったことがないような場所でのんびりくつろいでほしいと思い、あれこれ考えたのですが……これはやはりティーケー海岸ってことになるでしょう。
 ガタコンベあたりに住んでいる皆さんは、一生に一度も見ることがないかもしれない海に連れて行けるわけですし、アルリズドグ商会のアルリズドグさんの相談すれば宿とかの相談にものってもらえるんじゃないかな、と思いまして早速転移ドアをくぐってティーケー海岸へと移動していきました。
 で、おもてなし商会ティーケー海岸店のファラさんと一緒にアルリズドグ商会へ赴きましたところ、
「あぁ、ならウチの旅館を使えよ。全部貸し切りにして提供してやるからさ」
 そう言ってくれました。
「ってか、そこまでしてもらってもいいんですかね?」
「何言ってんだ! おもてなし商会がさ、ウチの商会から魚介類を大量に買ってくれてるもんだから、今年のアルリズドグ商会は史上最高の売り上げを記録してんだ。それぐらいお礼させろって」
 アルリズドグさんはそう言いながら僕の肩をバンバンと叩いてきました。

 と、いうわけで会場の確保が出来ました。
 アルリズドグ商会が経営している宿を一晩貸し切りにしてもらいました。
 2階の宴会場から海が一望出来る、なかなか素敵な宿なんですよね。

 アルリズドグさんとファラさんにも当然忘年会には参加してもらいます。
 で、その内諾を取り付けた僕は急いで本店に戻ると、各支店の店長に、
「急で悪いんだけど、明日忘年会をしようと思うんだ」
 と連絡し、各店の店員の出欠を確認してもらうようにお願いしました。

 で、スアとも相談したのですが、当日はスアの使い魔の森のみんなにも参加してもらうことにしました。
 ちょうど海岸がすぐ側にある宿ですので、当日はその海岸にみんなを招待しようかなと思っています。
 中にはスアの使い魔の森から出たがらない使い魔もいるだろうから、当日は転移ドアでスアの使い魔の森と海岸をつないでおいて、両方で忘年会をやってしまおうと思っています。
 で、そのことをスアと一緒に、スアの使い魔の森の長であるタルトス爺に話に行きますと
「うむうむ、スア様とその旦那様からのお誘いですでな、皆喜んで参加しますとも……いや、させますとも」 気がつけば、いつの間にかその後方に集まってきていたキキキリンリンやヴィヴィランテスも、タルトス爺の言葉に頷いています。

 とまぁ、そんなわけで、コンビニおもてなしの忘年会……どうやら盛大に行えそうです。

 ……これは、僕が元いた世界での話ですけど……
 まだ支店がいくつかあった頃にですね、こんな感じでコンビニおもてなしの忘年会を計画したことがあったんですが……参加希望者ゼロだったっていうトラウマがあったんですよね……ははは。

 そんなことを思い出して、若干引きつった笑いを浮かべていた僕なんですが、それに気がついたスアは、僕にピタッと抱きついて来ました。
「……大丈夫、よ。私がいる、わ」
 そう言ってニッコリ笑うスア。

 ……僕は最高の奥さんを手に入れたんだな……そう改めて実感した次第です。

しおり