小説において、主人公は自らが主人公であることを知らず、ヒロインは自らがヒロインであることを知らない。
しかし、彼らは違う。
舞台は屋上。
孤独な昼休みという、白川徹にとって大切な時間ををぶち壊した藤倉巴は、こう告げた。
「トオル君、君は【小説の主人公】に選ばれてしまったんだよ! そしてこの私は【ヒロイン】に選ばれた――――よろしくどうぞ」
彼らは自分たちが小説の登場人物であると知っている。ただし彼らは、どうしようもないほど普通の人間である。ここは現実。ここには異能力も異世界も、唐突に始まる自己紹介なんかも存在しない。
「この物語は君と、この私と、昼休みの屋上の物語だ」
ヒロインが言った通りに切り取られる物語。
唐突なメタ発言から始まる、とりとめのないメタ会話劇。
突如電波系と化した自称ヒロインに付き合わされる、他称主人公。
物語の最後に、彼が至る答えとは。
物語。それは連続した現実の途中に過ぎない。
この話は、屋上に始まり屋上に終わったひとつのセカイの記録であり、少し読者に不親切な小説である。
読みえた後に去来するものはカタルシスか? それとも肩透かしか。
――――貴方の想像力は、きっと揺れる。
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