見渡す限りの褐色の泥の原、土色の草、空を覆う暗雲。
そこに暮らす生き物や人もまた、色味を欠いた姿をしていた。
おそろしく色彩に乏しい世界の片隅で、協力しあいながら逞しく生きる狩猟民族『原野の民』。
原野の民の少年・セトも、馬を駆って獲物を追い暮らす日々を心から愛していた。
けれどある日、金色の髪に紫の瞳をした赤子が産まれたことで、セトを取り巻く環境は一転する。
その赤子は奇妙な色をしているばかりでなく、処女を母とし、男と女ふたつの性を持ちあわせていたのだ。
縁あってその赤子・シャルカの義兄となったセトは、赤子を弟として可愛がり、平穏な生活を与えてやりたいと望むが、周囲は奇怪な生まれをしたシャルカを『色付き』、『化け物の子』として疎外する。
慕っていた周囲の人々が、罪もない幼子に見せる醜い一面に、セトは段々故郷に対し違和感を募らせていく。
そしてシャルカが十二になった年、シャルカがこの世に色を取り戻す『神の御子』であると言う異民族が現れ、その身を攫わんとする。
果たしてシャルカは神の子か、それとも……
神の子とみなす異郷の民、化け物の子とする同郷の民、そのどちらの言も聞かず、セトはシャルカに手を伸べる。
「行こう、シャルカ。俺と世界を見に行こう」
シャルカがひとりの人間らしく生きられる地を探し、色のない世界を巡るふたりの旅が始まる。
モンスターも魔法もないファンタジー。
-
作品のキーワード
ログインすると作品の応援や感想の書き込みができるようになります。新規会員登録(無料)はこちら。
★を贈る
星を選択して「いいね!」ボタンを押してください。投票後、「いいね!を取り消す」ボタンを押せばいいね!を取り消すことが可能です。
感想を書く
感想を500文字以内で入力してください。入力した内容は作者の承認後、感想欄に表示されます。
通報をする
読者への感謝の気持ち