第二十六話
「のしつけて渡したいぐらいだ。でもそんなことができないのがひどく悲しい。」
「さあ、もう現実を直視するしかないんだから。まずは住まいよ。わかってるだろうけど、アタシの居住スペースを確保してよ。」
「なんだと!そんな若い男女がひとつ屋根の下で緒目著目?」
「その当て字は何なのよ。大悟、すごくいやらしいことを妄想してるようだけど、自分の胸に聞いてみなさいよ。」
大悟が豊かな二個のSuicaを弄ると、顔色が青ざめていく。黒かった髪も長くなり、ピンク色に変化している。
「・・・現実という人生の壁がオレの青春を蝕んでしまうのか。神はオレを見放したのか!」
「神様はここに存在証明してるじゃない。喜びを全身で表現しなさいよ。」
「バンザイ、バンザイ、おばんざい!」
「フレーズがビミョーに変化してるけど、食欲は旺盛のようでいいわ。じゃあ、正式に馬嫁下女の家に降臨するからね。」
「ぬおおお!こうなったら、矢でも鉄砲でも持って来いだ!」
丁度この時、桃羅の入浴が終わり、リビングに帰ってきた。
「入浴で清められたモモは一味も二味もおいしくなってるよ。すぐに食べてもいいんだよ。オヨメちゃん・・・じゃない。あんた、いったい誰?」
「オレだ。お前の兄、宇佐鬼大悟だ。」
「ちょっと、そのムダに豊満なバスケットボールの、どこがあたしの大好きなオヨメちゃんなんだよ?」
「桃羅。これには不快、いや深いわけが。」
「オヨメちゃんを騙る女子なんて実に不快だよ。」
「落ち着け、桃羅。オレには、オレがオレであることが証明できるんだ。」
「オレ、オレ、オレって、何の詐欺なんだよ?」
「いいから、オレを大悟だと思って、いつもの通り、玄関から出迎えてくれ。」
「はあ?どうしてそんなことを。でもいいよ。やったげる。さあ、来い!」
「桃羅。ただいま。」
「お帰り!抱き、抱き、抱き~!」「避け、避け、避け~!」
「『玄関開けたら間髪入れずの三重奏ハグ』をよくぞかわしたね。このワザ回避ができるのはこの世でただひとり。ホンモノに間違いないよね。正真正銘オヨメちゃんだ。やった~!おかえり、オヨメちゃん!抱き、抱き、抱き~!」「避け、避け、避け~!って、デジャヴーかっ!」
「つい、いつものクセで。でもオヨメちゃん。その胸はどこかで改造人間手術を受けてきたの?」
「そうなんだ。ジョッカーとかいう謎の組織に拉致されてだなあ、って、そんなわけあるか。とにかくこうなった理由はオレにもよくわからないんだ。」
「そう。でも中の人がオヨメちゃんだとわかってひと安心だね。しかしこれじゃまずいよね。」
「そうだ。これは非常にまずい状態だ。」
「このままじゃ、モモはオヨメちゃんと結婚できないよ。」
「そっちかよ!」