43 子供たちの活躍
到着初日の居間では我がイーリス国の国王陛下の姉君であり、ノース国正妃であるテレサ皇后と、ノース国に潜入したクーデター作戦参謀のジョアン、全ての作戦の中心となるサミュエル殿下とアレクとドレックと国王が、通信のブースターであるミセスサリバンと私を経由して繋がりました。
それぞれの場所はYという文字の形で、全ての線が集まる部分がミセスサリバンの居る温泉地です。
〈リラが元気でいてくれてうれしいわ〉
テレサ皇后が話し始めました。
〈王女殿下、ご無沙汰しております。私はお陰様で元気にしております。老体ではございますがお役に立てて嬉しゅうございます〉
ミセスサリバンが返事をしました。
サミュエル殿下が少し苛ついたように言葉を被せました。
〈叔母上そしてミセスサリバン、懐かしい話は解決後ゆっくりということで、早速始めたいと思います。余裕のないことで申し訳ございませんが、何卒ご理解ください〉
〈ええ、そうね。ではこちらで把握していることから話すわね。現在国王陛下は病床にあり執務を行える状況ではないわ。恐らく微弱な毒を盛られているのだと思う。私にも届いているけど口にはしていないから安心してね。皇太子はつい最近まで王弟にべったりだったのだけれど、なぜか仲違いをして殺してしまったの。それから暴走が始まったわ〉
〈なるほど。では暴走してからは単独ですか?〉
〈そうね、恐らく胆略的に目先のことだけを追っているから単独行動でしょう。このままでは国が崩壊するわ〉
〈叔母上だから言いますけど、この際崩壊してもらおうと思っています〉
〈あら!いいわね。民主化するの?共和国かしら?〉
〈未定です。どちらにしてもクーデターは起こします。皇太子妃マリアとその恋人役のエヴァンの居場所はどこですか?〉
〈マリアは王宮で優雅に暮らしているらしいわ。それとエヴァンなのだけれど不明なの〉
私は思わず立ち上がってしまいました。
叫ばなかっただけでも褒めてほしい位です。
〈不明とは?〉
〈私の影が探っているのだけれど、王宮にはいないみたい。全ての部屋と牢獄や離宮まで探したけど見つからなかったわ。そこにその者の婚約者がいると聞いたけれど?〉
〈はい、ローゼリア・ワンドと申します。ノース国ではマリー・ヤングと名乗っております〉
〈あなたもテレパス能力を持っているのね。その能力は何かの切っ掛けが無いと自分でも分からないから驚いたでしょう?ああ、また脱線してしまったわ。ローゼリア、あなたの婚約者は絶対に生きています。それは言い切れるわ。でもそれは国王が生きている間だと考えた方がいい。恐らく皇太子はマリアとその者に罪を着せて公開処刑するつもりよ〉
〈公開処刑!〉
私は眩暈を起こして座ってしまいました。
〈ローゼリア!しっかりしろ!〉
ジョアンが私の胸に顔を擦り付けながら言いました。
〈大丈夫だ、ローゼリア。そうさせないために来たんだから。僕が絶対に兄上を救うから〉
私はジョアンを抱きしめて泣きました。
〈ローゼリア、泣くとの脳波は乱れて通信に影響が出る。頑張ってくれ。叔母上、エヴァンを隠すとしたらどこが考えられますか?〉
〈実はエヴァンのことはまだ公表されていないのよ。一番効果的なシーンで登場させるつもりなのだと思うわ。でもマリアは平気で王宮にいるから、きっと自分は殺されないと信じているのね〉
ジョアンが静かに言いました。
〈アランを押さえよう。アランが来ないとなるとマリアが予定外の行動を起こすはずだ〉
〈そうだな、アランの身柄はこちらで確保する。兄上たちはまだノースに滞在しているから、ワンド調査団の慰問という形でそこに向ってもらう。アランが居なくなったという話はリーカス兄上からそれとなくマリアの耳に入るように動いてくれ。それと諜報員からの報告によると、そちらのクーデターグループの拠点は王立研究所だ。そこには王立図書館もあるからジョアンとエスメラルダを連れて行っても不思議ではないだろう?〉
〈好都合だな。副所長達が市街地の地質調査をしているときに脆弱な場所をみつけたとでもすればいい〉
〈うん、副所長の調査にはできるだけエスメラルダが同行してくれ。できれば隈なく王宮周辺を歩き回ってほしい。エスメラルダの視覚はミセスサリバンを通してアレクに繋がる。アレクがそっくりそのままを描き取ってくれる〉
〈わかった。じゃあ私は副所長にいろいろ教わっているってスタイルね〉
〈よろしく頼むよ。王宮への有効な侵攻経路を探りたい。そしてジョアンはローゼリアと図王立図書館に通ってくれ。ローゼリアはできるだけノースの国力が分かるような本を広げてほしい。こちらでドレックが視覚を共有して写すから。まるでジョアンに教えているような感じで座っていれば不自然ではないだろう。その間ジョアンは状況を判断して作戦を組み立ててほしい。数日後にはあちらのリーダーと接触でいるように動く〉
〈待ってください!エヴァン様は?エヴァン様の居場所はどうやって探すのですか!〉
私は脳内で叫びました。
〈それは私に任せてちょうだい。必ず見つけ出すわ〉
皇后陛下が力強く励ましてくれました。
〈わ…かり…ました〉
〈そろそろミセスサリバンが限界だ。また明日にでも〉
サミュエル殿下の声が途切れました。
中継地点として頑張って下さっているミセスサリバンには、かなりの負担をかけているのでしょう。
テスト的に皇后陛下に呼びかけてみると、普通にお返事を下さいましたので、やはり限界距離があるという事です。
副所長の提案で、その日は全員で海鮮レストランに行きました。
海鮮料理といえば、ハイド領の港でエヴァン様とララと一緒に食べたオサシミを思い出します。
あの時の優しい眼差しを思い出すと、また泣きそうです。
でも明日からはしっかり頑張らねばいけません。
私は気合を入れてメニューを開きました。
「あれ?オサシミがある?ワサビも?」
あの料理はハイド領のあの店でしか食べられないと思っていたので、不思議に思いウェイターに聞きました。
「料理長にご挨拶ができますか?」
ウェイターは不思議そうな顔をしていましたが、料理長に聞いてくると言って厨房に向かいました。