31 天才児たちの謎
近衛騎士たちに見送られ、馬車に乗り込んだ博士と私は大きな息を吐きました。
「博士、疲れました」
「ああ、疲れたな」
「なんと言うか急展開でしたね」
「そうだな。それにしても母上のことを今でも気にかけて下さっていたのには驚いた」
「私は博士のお母様がテレパスだった方が驚きましたよ」
「ああ、わざわざ言うほどのことでも無いと思ってね。私がこの分野に興味を持ったのは母が原因だからね。それを言うならローゼリアがテレパスという方が驚きだ」
「私がテレパスというのは少し違うように思うのです。実際にエスメラルダもアレクもドレックも何度も私に語りかけていました。そういう仕草は何度も見ましたから。でも聞こえてこなかったのです。ではなぜサミュエル殿下の声だけ聞こえたのか…」
「恐らくサミュエル殿下の能力が桁違いに高いのだろうね」
「それに殿下の言葉は子供とは思えないほどでした」
「それは?」
「そうですね…まるで研究所の仲間と話しているような感じというか?」
「ほう?成人と同等かそれ以上ということかい?」
「はい、とても高い知性を言葉の端々に感じました」
「もしかしたら、彼らは体が子供というだけですでに大人なのかもしれないね」
私たちはそれきり考えに没頭してしまい、馬車の中には静寂が流れました。
研究所に戻ると、いつもと同じ光景でとても安心しました。
私は子供たちが好むお菓子を用意してバラ園のテラスに誘いました。
例によってエスメラルダが呼びかけてくれて、のろのろと男の子が三人集まってきます。
「おかえりなさい」
「ただいま。みんな何か変わったことは無かった?」
「「「無い」」」
「あった」
ジョアンだけが違う答えを口にしました。
「あら、ジョアン?何があったの?」
研究所のメイドが子供たちにココアを配っています。
他の三人も興味深そうにジョアンの顔を見ています。
「雨が多すぎる」
「今日は雨は降ってないでしょ?」
「北方沿岸部」
「北方沿岸部?なぜわかるの?」
「見たらわかる」
「どうやったら私も見られるの?」
「…無理」
そういってジョアンは踵を返してしまいました。
アレクが横で何やら考え事をしていましたが、彼も黙って行ってしまいました。
ドレックがアレンを追って行き、肩に手をかけて振り向かせました。
「珍しいな」
サリバン博士が独り言のように言います。
確かに彼らが身体的接触をして意識を向けさせるという行動は珍しいです。
二人でじっと見ていた時、エスメラルダが急に声を出しました。
「うん、いいよ。来月ね」
彼女は窓の外を見ています。
「わかった。伝えておくね」
博士がエスメラルダに声を掛けようとしましたが、彼女はさっさと歩き出しました。
まだ目線だけで会話をしているアレクとドレックに追いつき、三人でジョアンの入った部屋に向っています。
「博士?」
「何だったのだろうね。聞いたら答えてくれるかな」
博士も困っているようでした。
ここで考えていても分からないことは分からないままなので、彼らの様子を伺ったら図書館に行って文献を漁ってみよう思います。
「博士、王宮へのお引越しは博士からお話されますでしょう?」
「そうだね、嫌がるようなら相談しないといけないし。今からでも話してみようか」
「はい」
私たちも子供たちの部屋に向かいました。
すると不思議な光景が目に飛び込んできました。
博士も驚いていたので、恐らく初めてなのでしょう。
子供たちが輪になって四人で手をつないでいるのです。
立ち竦んだ私の頭の中に微かな声が響きました。
〈ローゼリアも一緒だ〉
私は慌てて子供たちに駆け寄りました。
「何が一緒なの?」
エスメラルダが声に出しました。
「お城」
「お城?」
「サミュエル」
「…どうして知っているの?」
「話した」
「えっ?どういうこと?」
〈ローゼリア、落ち着け。僕だ、サミュエルだ〉
「えっ?えぇぇぇ~!」
〈そこで口に出しても私には聞こえないぞ。頭の中で話せ〉
〈殿下?どこにいるのですか?〉
〈自室だが?〉
〈かなり混乱しています!っていうか頭が追いつきません!〉
〈そこにサリバン博士もいるのか?〉
〈はい〉
〈それは好都合だ。一旦ソファーにでも座って落ち着け〉
〈はい、わかりました〉
私は呆然としている博士に言いました。
「今サミュエル殿下と話をしました。今からいろいろ説明をして下さるそうです。ソファーに座って一度落ち着くように言われました」
「あ…ああ、ああそうだね。落ち着こう」
そう言うと博士は控えていたメイドに紅茶の用意をさせました。
私たちがソファーに座ると、子供たちもついてきて一緒に座ります。
熱い紅茶をストレートでいただくと、少し気持ちが落ち着きました。
「殿下に呼びかけてみますね」