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2-8

「クッカー置いてきたよ」
「ありがとうございます!」
「サンキュ。その本何?」
「この班の総評だって。あ、いい作戦だったねって褒められた」

 手を出してきた陽夏に冊子を手渡し、隣に腰かける。
そんな私たちを、結衣ちゃんは不思議そうな顔で見つめてくる。

「お二人の関係って、お友達ですか?」
「うん。友達」
「兼幼馴染と腐れ縁ってヤツー」
「腐れ縁はひどくない?」
「事実っしょ」

 わいわいと言い合う私たちを見て、結衣ちゃんは「いいなぁ」と呟く。

「そんなに仲のいい人がいるって、羨ましいです」
「でも結衣ちゃん、人数であぶれてただけで仲良さそうなお友達、いるよね?」
「あの子たちはお友達ですけどグループですもん。ペアで分かれろって言われたら、余るのはいっつもあたしです」

 結衣ちゃんは膝に顔を埋める。
どことなく幼く見えるのは、手入れのされている髪をツインテールにしているからだろうか。

「今日だって、二人と三人に分かれればよかったのに。四人の方が効率いいからって、ごめんって言われましたけどぉ」
「それ、友達じゃないじゃん」

 陽夏は彼女の鬱々とした愚痴を、ばっさりと切り捨てる。
結衣ちゃんは目をぱちくりと瞬かせ、呆けている。

「自分たちの都合のいい時だけグループに入れてさ、都合悪くなるとハブるのは、それ、友達と違くない?」

 正論だ。
しかし、あっさりと受入れ答えを出すことは難しい。
彼女は小さく唸り声を上げる。

「……でも、あの子たちいないと、あたしお昼ご飯ひとりぼっちなんですよ」

 私は陽夏と顔を見合わせる。
私は陽夏や姉が傍にいてくれるから、ひとりで食べるご飯の味を知らない。
でも、結衣ちゃんはその味を知っているのかもしれない。

「……結衣ちゃんがやりたいようにやればいいと思う。急に言われても、いきなり考えを変えるって、結構難しいと思うし」
「……ん。ウチも勝手なこと言った。ゴメン」

 陽夏が謝ると、結衣ちゃんは顔を膝に埋めたまま、首を横に振った。

「大丈夫です。それよりも! 総評見ませんか?」

 空気を変えるように、結衣ちゃんは明るい声を出す。
そのことをありがたく思いつつ、陽夏に視線を遣ると、彼女は持っている冊子を一枚開く。

「『即席のグループで、息を合わせる追い込み猟という方法を思いついたことがグッド。実際にうまく追い込め、確保できたことがすばらしい』。だってよ」
「照れるね」
「あ、でも次のページ注意事項みたいです」

 『ただし、今回捕まえた魔物はカク・ボア。カプセルのため威力はないが、実物はもっと大きく、ぶつかれば砲弾並みの威力がある魔物。そのため、今回の追い込み猟では、待ち構えた時にぶつかる、あるいは追いかけている間に逆上されて損傷を負う可能性がある。今回と同じ手法を取るのなら、タンク役の人を立てるか、魔物の軌道を計算し、罠を張ることを勧める』

「なんか、お褒めの言葉よりもボリュームたっぷりな気がするんだけど」
「それだけ反省点が多かったってことっしょ」
「あー、そっかぁ、実物を想定していませんでしたね、あたしたち……」

 三人で肩を落とす。
これで実践でなくてよかった、という安堵と共に。

「あと一ページ残ってっけど、どする? 見る?」

 陽夏はこの空気を呼んで、勝手に開くのではなく、私たちに選択肢を与えた。

「私は問題なし」
「あたしも平気です」

 とはいうものの、何が書かれているのか分からず、ドキドキするのも事実。
陽夏の手によって恐る恐る捲られたページを見ると、『講習のお知らせ』と書かれている。

「えっと、魔物の解体講習のお知らせ……」
「そいや、今日は解体まではやってなかったっけ」
「今回はカプセルのボタンを押すだけでしたもんね」

 また辛口な言葉が書かれているかと思っていただけに、拍子抜けする。

「……でも、これめっちゃ必要じゃね?」
「そうですね。魔物を倒してすぐお肉が手に入るなんてないですもんね」

 頷き合っているふたりに同調しつつ、もう一度講習のお知らせを見る。
日付も時間も全く書かれていないのは、詳細は受かってから、とそう言う意味なのだろうか。
私はそっと、冊子を閉じた。

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