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「では、みなさんテントを立て終わったようですのでー。今からお昼ご飯にしたいと思いまーす! お好きな人と、二人から四人くらいのグループを組んでくださーい」

 ご飯を食べるのにグループ?
そういえば、講義の後にお昼を作るって言っていたな。
 怪訝に思うも、先ほど言われたことを思い出し、納得する。

「組もうぜぃ」
「おっけー」

 当然のように私は陽夏とペアを組む。
ひとまず二人のペアは組めたため、このままでもいいのだけれど。

「あの子、あぶれているね」
「な。タイミング逃したぽい?」

 未だに誰とも組めずに彷徨っている女の子。
パッと見て、彼女と仲のいいグループがあるようだけれど、人数的にあぶれてしまったらしい。

「陽夏、誘っていい?」
「もち。おーい、そこの人ー」

 陽夏が声をかけると、彼女はきょろきょろと辺りを見渡し、自分の方を指さして首を傾げる。
迷わずに頷くと、彼女はこちらの方へ駆けてきた。

「あたし、ですか?」
「うん、そー」

 こちらに来てから、もう一度確認を取る彼女は、眉を下げて困った表情を浮かべている。

「もしグループが決まっていないなら、どうかなって思って」

 私がそう言えば、見て分かるほどに彼女の顔が明るく輝く。
その勢いのまま、彼女は思い切り頭を下げた。

「もちろんです! 不束者ですが、よろしくお願いします……!」
「うん、それ嫁入りの挨拶な?」

 陽夏は苦笑し、私は彼女が入る場所を空ける。
すると彼女はおもむろに携帯を取り出し、よく見るSNSのアイコンをタップした。

「『いつメングループに入れなかったピエン。だけど親切な人たちにグループ入れてもらったヤッタネ』……っと」
「え、それ……?」
「はい? 携帯ですよ?」
「試験中、出してたらマズくない?」
「大丈夫ですよー! 出してても何も文句言われませんでしたし。そもそも、ここ中庭だから使えているようなもんで、室内入ると一気に圏外になるんですよ! だからカンニングもできません!」
「それ堂々と言うこと違うっしょ」

 呆れたように言う陽夏に同意する。
どうやら、同じグループになった子はいわゆるSNS中毒の子だったらしい。

「とりま、試験中はそれ使うのやめてくれん? なにが不合格になんのか分かってないしさ」
「え、でもでも、電波通じているってことは使っていいってことですよね? あたし、カンニングなんて絶対しません! 友達に報告するだけです!」
「あのね、その報告がダメって言われるかもしれないの。だから、せめて今日だけはそれを使わないでほしいんだけど……」

 でもーだとか、えー、だとか。ぶつぶつ文句を言うその子は、やがて無言の圧に負けたのか、渋々と携帯の電源を落とした。
私は心底ほっとした。

「ありがとう」
「いえー。……あたしも、資格もらえないのは困るので」

 言えばきちんと分かってくれる子だったことに、私はひどく安堵した。

「そいや、自己紹介してなかったね。ウチは相原陽夏。こっちは斎藤恵美」
「よろしく」
「あたしは後藤結衣(ごとう ゆい)です。よろしくお願いします」

 聞けば、彼女はいずれSNSでインフルエンサーになって有名になりたいのだとか。

「ダンジョンで珍しい発見をすれば、一躍有名になれるはずです! そして憧れの、通知止まらんを言ってやるんです!」

 頑張れとしか言えなかった。

「では、グループも決まったようなので―。お昼ご飯を作りたいと思いまーす」

 宮野さんは手をパンパン叩き、注目を促す。
しかし、そこには食材らしきものは何もない。
あるのは、ひとつのクーラーボックスと、コンパクトにまとまっている調理器具。
それから、ひとりずつに手渡された、少し厚めのレシピ本。
クーラーボックスは開け放たれていて中身が見えているが、そこにあるのは網に包まれているカプセルの様なもの。
少なくとも、食材ではないことはたしか。

「では、今から皆さんはダンジョンで狩り(・・・・・・・・)をして、昼ご飯を作りますー」

 困惑したような空気が広がる。
宮野さんは、「っていう設定ですー」なんてのほほんと訂正する。
実際にダンジョンに入るわけではないようだ。

「このカプセルの中には魔物のお肉とか、お野菜とか、とにかく食べられる部位が入っているのですがー。これを今から中庭に放しますー」

 中庭に放します?

 その言葉が疑問として脳に到達し、その解をはじき出すよりも先に、宮野さんはよいしょー。と気の抜ける掛け声でクーラーボックスをひっくり返した。
すると。

「うわっ?! なんかこのカプセルめちゃくちゃ動くんだけど!」
「いてっ、いって! めっちゃぶつかるじゃんコイツ!」
「ちょっと、すり抜けていっちゃうんですがー!」

 バラバラ散らばるカプセルは、それぞれが自我を持ったように動き出す。
形状はガチャガチャのカプセルなのに、動きはまるで動物のよう。

「それはー、ダンジョン低階層にいる魔物の動きを模して動き回ります―。例えば、兎さんの動きをしているカプセルにはホーンラビットのお肉が入っていますー。カプセルに付いているボタンを押すと、魔物を絞めたってことになって、動かなくなりますよー」

 宮野さんはほのぼのと、阿鼻叫喚の惨状を見守っている。

「その魔物カプセルさんたちを捕まえて調理してくださいー。それが皆さんのお昼ご飯になりますー」

 魔物さんたちの調理方法はレシピの中にありますので、参考にしてくださいー。
彼女は終始のんびりと告げ、「あ、それからー」と思い出したように付け足す。

「お昼ご飯はー、こちらの方で食パンの一枚は保証しますぅ。何も食べられないってことは無いのでぇ、安心してくださーい」

 つまり、獲物が取れなかった場合は中々ひもじい食事になると、逆に言えばそういうことらしい。
彼女はもう一度手の平を叩く。

「では、開始ぃ」

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