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「本日探索者試験を受ける方ですね。
若干息を荒げながら会場の受付に辿り着く。
そこで待っていたのは、私の知らない人。
つまり、この間の探索者協会で出会わなかった人。
「あ、はい。どうぞ」
「お預かりいたします」
受付の彼女は、私が出した紙を眺め、タブレットに何事かを記入していた。
「はい、確認しました。本人確認のため、お名前とジョブを教えてください」
「は、はい。斎藤恵美、ジョブは
「間違いありませんね。では、受験番号は十番です。サブホールにてこちらの番号表と同じ番号が書かれている席へお座りください」
簡単な身分照会を終え、受験番号の書かれた番号表を受け取る。
私は思い出して、受付のお姉さんに問う。
「すいません、買ったお店で取り扱いについて教えてくれなかったのですが……」
そう言いながら、リュックの中のダガーを見せる。
彼女はそれを見て、にっこりと笑んだ。
「はい。持ち運び方に関しては概ねその通りで大丈夫です。ただ、次からは丈夫な紐で鞘と持ち手をぐるぐる巻きにしてあげて、リュックやカバンに入れて外から見えないようにしてくださいね。もちろん、ダンジョンに入るとき以外はです」
丁寧に教えてくれた彼女に頭を下げ、会場の中へ入る。
会場は、パッと見では、大きめの総合体育館のような外観をしている。
体育館をメインとして、プールとか、会議室。
あとは小さな購買や飲食店などが併設されているような、あんな風の。
「陽夏何番だった?」
「十一。メグは?」
「十。よかった、席近いね」
陽夏と連れだってサブホールと言われた部屋へ向かう。
サブホールと言うから、きっとメインよりは小さいのだろうと予想して向かったが、予想以上に広い。
そして人が多い。
おそらく五十人以上の人がいる。
その大半は私たちのような高校生らしき人たちで占められている。
「番号は受付順なのかもね」
「かもしれんね」
そんなことを囁き合いながら、決められた席へ座る。
一度だけ近所の大学の学園祭に行ったことがあるが、並べられている机はそこで見た横並びの長机と似た配置だった。
「隣だ」
「ラッキー」
一番端の机の前から二番目。
そこに陽夏と並んで座る。
机の下に荷物置き場が作られていて助かった。
意外にも、荷物で一杯のリュックはかさばる。
「なんつーか、試験って言う距離感じゃなくね?」
「そうだね……。隣とこれだけ近いと、カンニングだってし放題だしね」
そんなことをこそこそ話していると、前方の扉から人が入ってきた。
筋骨隆々の大男。
その言葉しか見当たらないくらい、体格のいい長身の男性だった。
「これより探索者試験を始める。オレは試験官の桜宮 サイモン。アメリカから来たが、日本人の妻と結婚して、今は国籍も日本国籍だ。よろしく」
軽く自己紹介をして片手を上げるサイモンさんに、まばらに拍手が起こる。
私も拍手をしながら、最近どこかで桜宮って苗字を聞いたな? と思い出していた。
「さっそくだが試験を行う。だが、試験はペーパーテストじゃない」
ほんのりとホール内が騒めく。
予想はしていたものの、いざ言われるとなると私も小さく声を漏らしてしまう。
「Be quiet。静かに」
サイモンさんが注意をすると、ほんのりとしたざわめきが徐々に収まっていく。
完全に静かになったことを確認した彼は、手元のリモコンを操作してプロジェクターに映像を映した。
「今回キミたちに行ってもらう試験は、始めに講習を受け、それからテストを行う形式で、全部で三つある。テスト自体は実践の場合と、ペーパーの場合があるが、その三つのテストの総合点で、試験の合否が決まる形式だ」
あれだけ時間が長かったことにも納得した。
講習を受けさせつつ、その確認のためにテストを行う。そんな形式であると私の中で理解する。
「受ける講習はダンジョンの種類と注意事項などを総合的に学ぶ『ダンジョン理論』。ダンジョンの中でキャンプをする際に必要になるだろう『野営実習』。それと、実際に魔物との戦い方を学ぶ『戦闘実践』の三本だ」
プロジェクターにはサイモンさんの声に合わせて、いくつかの映像が浮かんでは切り替わる。
あらかたの概要などが書かれているようだったが、読む前に消えてしまった。
サイモンさんはもう一度映像を切り替える。
平面的な線の書かれた図面。
よく見ると、このホール内の机並びを表しているようだ。
「今からこの部屋にいるキミたちを三つのグループに分ける。それぞれ、プロジェクターに書かれている部屋へ向かってくれ」
私と陽夏は最初にダンジョン理論を学ぶグループに入っている。
向かう先は会議室。
サイモンさんの、「では、それぞれ向かってくれ」という声で各々立ち上がった。
「はい、陽夏」
「ん、サンキュ」
荷物を背負うのに少々てこずっている陽夏を手伝う。
杖を彼女に渡して、自分のリュックを背負った。
「てか、ダンジョン理論って座学っしょ? このままやりゃぁいいのに」
「んー、なんでだろうね?」
首を傾げ合いながら、私たちは会議室へと足を進めた。