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「だって利点なんて見た目だけって言ったも同じじゃないですか!」
「違うんだ! 本当にもっと利点があるんだ! 真っ先に主張したいのがエロいってことだけで!!」
「余計タチ悪いですよ!」
「ただエロいだけじゃないんだ! 清純なエロさ! そう、セーラー服やブレザーの制服に通じる健全なエロさだ!」
「言っている意味が分かりません!」
タイツに履き替えたい私 VS ガーターニーハイ絶対信者河野さんの、更衣室へ入るまでの戦いは、陽夏の手によって止められた。
「まーまー。とりあえずさ、メグ。話全部聞いてから決めても遅くなくない?」
柚子っちも落ち着けしー。なんて宥める陽夏の姿を見て、ひとまず更衣室に入ろうとする身体を方向転換させる。
「それで?」
「ごほんっ。まず、そのニーハイはシールドニットって布で作られてる。魔物の中でも、特に守りに特化した魔物のことをシールドモンスターシリーズなんて括って呼ぶけど、その中でも毛のある魔物の素材を合わせ、特殊な製法で糸にして作られた布だ。まず、これだけで大砲レベルの衝撃は防げると思っていい」
「へぇ、大砲防げるんだ、これ」
ニーハイを摘まんで弾く。
うん、普通の靴下の質感。
「次にガーター。これはダンジョンの深階層から採取されるミスリルを薄い板にして、特殊な加工でしなやかさを持たせたものを間に挟み込んでいるんだよ。使われている革は、当然のようにシールドモンスターシリーズから採られた皮だし、これを
「陽夏、やっぱタイツちょうだい」
「何故だっ?!」
最後の最後で変態性を抑えきれなかった河野さんは、店内なのにも構わず、四つん這いで嘆き悲しむ。
あ、ヘルメットさんに踏まれてる。
「ちょっと、店長邪魔です」
「痛いぞコスモくん。あたしをもっと敬いたまえ」
「そんなとこに寝っ転がってるのが悪いんですよ」
「コスモくんー……」
「わたしは秋です。苗字が桜宮だからって、変な所切り取って変なあだ名付けないでください」
ヘルメットさんもとい秋さんは、河野さんをさらに踏んづけ段ボールをしまいに裏へ向かっていった。
「……店長!?」
数秒遅れて、秋さんがとんでもない爆弾を落としたことに気が付き、思わず復唱してしまう。
河野さんは立ち上がり、どんっと胸を張って声高に叫ぶ。
「そうとも! このあたしが、盗賊装備アレシアのてんちょっ」
「店長うるさいです」
バックヤードからヘルメットが飛んできた。
河野さんの頭部に激突したそれが床に転がる。
十中八九、秋さんの仕業だろう。
再び床に伏した河野さんの傍にしゃがむ。
彼女は「
「河野さん、この装備、買います」
「本当かい?!」
「復活はや」
喜色満面の笑みで立ち上がった彼女は、私の手を握ってぶんぶん振り回す。
「ありがとう、ありがとう! あたしは、恵美、キミのような人にこの装備が渡ることを夢見ていたんだ。夢をかなえてくれてありがとう!」
「え、いえ、こちらこそ?」
「さて、そうと決まれば値段交渉をしようじゃないか! なんせ、せっかく買ってくれる気になっているのだもの。予算が足りずに買えなかったとあっては大変だ!」
彼女はレジへ電卓を取りに行き、いそいそと戻って来る。
座る椅子はない。
代わりに、私たちを待たせないようになのか、彼女の電卓捌きは神懸っていた。
「ちなみに恵美。キミの予算はいくらなのか聞いてもいいかな?」
迷った末、私は両手で予算を示す。
「なるほどなるほど……。うん、恵美、キミは非常に運がいい」
ッターン! と高らかに電卓版を弾いた河野さんが、その数字を見せてくる。
「ほら、予算内に収まっている」
確かに予算には収まっている。
けれど、これだけの性能がこの値段であるはずがない。
電卓の数字と、河野さんの顔を見比べる。
もしかしたら、不安そうな顔を浮かべていたのかもしれない。
彼女はふ、と微笑み、頷いた。
「たまにその装備、あるいはこの店の他の装備を着て、キミのその
「あ、すいませーん、お会計お願いします」
心配して損した気分。