第114話 ノーリスへ
勇者様を落ち着かせ、簡単な打ち合わせを行った。以前ラーカルでのスタンピード対応として行った内容を説明し、スタンピードが始まるまではスタンピードの規模を小さくするように立ち回ることを主に動き、スタンピードが始まった後は僕とミーアが前面に立ち勇者様パーティーは打ち漏らしの処置と王種がいた場合の対応のための戦力としてついてもらうことに決まった。
そして今僕たちは残された森を監視・防衛する城塞都市ノーリスに来ている。城塞都市と言っても、それほど大きいものでは無く頑丈な塀に囲まれたこじんまりとした街といった感じだ。僕とミーアの2人だけなら走った方が速かったのだけれど、あまり先行し過ぎても仕方ないので今回は馬車で移動してきた。アーセルと勇者様も僕たちが送った特製馬車を使ってくれた。アーセルが早速飛んできて
「なにあの馬車。雲に乗ったみたいな乗り心地だったんだけど」
「僕たちって普段馬車に乗らないからさ。たまに乗るだけだと色々つらいから魔道具仕込んでもらったんだよ。で、それをそのまま入れ込んだ感じ」
アーセルはコテンと首を傾げて疑問を口にする。
「え、なんで馬車に乗らないの」
「だって走った方が速いもの」
僕が言う前にミーアが答えている。アーセルはその答えにちょっと引き気味だ。
「そ、そういえば村に居た頃も、2人って足が凄く速かったものね」
「祝福のおかげでね。騎馬以外であたし達より速いって斥候職の祝福持ちくらいじゃないかしら」
「じゃ、じゃぁなんで馬車を作ったの」
「アーセルは勇者様とお付き合いしていて……そか普通に馬車の方がいいのね。あのね貴族って、と言うか貴族じゃなくても、ある程度公式な場に出るときには馬車で行かないとまずいのよ。それに貴族だとそいうところに行くには家紋の入った馬車じゃないとまずいって面もあるの。詳しいことは勇者様……じゃなくてもう旦那様ね、に聞きなさいな」
僕も勇者様も、こんな2人を微笑ましく眺めていた。そこにノーリスから騎士が数人近づいてくる。
「勇者様、聖女様、お待ちしておりました」
「状況はどうか」
流石は勇者様。このあたりの対応は貴族として慣れたもののようだ。
「いまのところ、森周辺に魔獣が溢れた段階です。まだスタンピードに至るには少々時間があるかと思われます。」
「そうか、間に合ったな」
「その、ところでそちらのお2人は勇者様のお知り合いでしょうか」
「ふむ、お前たちは見知っておらんか。こちらの2人こそグリフィン侯爵ご夫妻だ。スタンピードの話をしたところ手伝っていただけることとなった」
「おお。帝国の守護神。それではもうスタンピードは終わったようなものですな」
「油断はするなよ。おふたりが強いのは間違いないが、1度に2か所にいられるわけではないのだからな」
「何を言われます。数年前のラーカルのスタンピードでの活躍をこの目で見させていただいたのですが、もはやあれは戦闘というより芸術の域でした。そのおふたりが更に研鑽を積んでここにおられるとなればもう盤石でしょう」
「そんなにか」
「それもう。ところでぶしつけではありますが、勇者様は、そんなおふたりとはどのような」
「ふむ、アーセルがおふたりと幼馴染なのだ」
どうにも自分たちの評価をそばで聞かされるのはやはり面映ゆい。
「フェイウェル・グリフィン侯爵だ。よろしく頼む。とりあえず森から溢れて来ている魔獣の間引きをするから、狩った魔獣の処理をする部隊の編制をしてくれ。夕刻までに森の外の魔獣くらいは狩っておきたい」